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第十二話 ミサト、苦戦する
ミサトは苦戦していた。咳は出るわ、敵の連携は想像した以上に厄介だわで五回戦もトップは取れそうにない点差まで突き放された。
「ロン!」
(ああ、これでオーラスにハネツモでもトップが取れない位置に…… いや、それどころか)
そう、それどころではない。オーラス二着と500点差とは言え三着のままフィニッシュしてしまったらトータルで祝儀合わせて微妙にマイナスになってるかも知れない。それはつまりこの勝負が負けで終了することを意味する。何としても二着に浮上してこの五回をドローゲームとし次の五回勝負に突入させなければならなかった。そんなオーラスのミサトの7巡目の手がこれだった。
五回戦オーラス
南家
7巡目
ミサト手牌 ドラ④
①②③赤⑤⑤⑦⑧⑨4467南 8ツモ
(テンパイした! とは言え期待は出来そうにないシャボ。役無しだからってこれをリーチすることにどれ程の価値があるだろうか。まだダマがいいかもね)
打南ダマ
すると次巡。
ツモ5
(序盤で捨てた9索がフリテンになってるけどこれはもう最終形! ここで腹を括るしかない!)
「リーチ!」
打4リーチ
それを見て待ってましたとばかりにラス目の北家(浜田)もツモ切りで追っかけリーチをかけてくる。しかも……
「リーチ」
打4リーチ
(ぐっ! 4索切り追っかけリーチ? シャボのままなら当たりだった牌だ……)
親の呉は浜田の本命牌を持っている。しかし呉はこう思った。
(ここでおれが差し込んでもおそらく誰の着順も変わらないな。それだと井川は微妙にトータルプラスしてるかもしれない。ここは浜さんに任せよう。浜さんならマン直ハネツモの三着逆転条件を満たしたリーチをしてるはずだ)
浜田手牌
二三四②④④④⑥⑦⑧789 ドラ④
呉の読み通り。ツモの場合は裏が1枚必要だが浜田は逆転手でリーチしてきていた。
ピンフかタンヤオか赤の変化を待っていたがターゲットがリーチで無防備になったのでこうなれば直撃狙いのドラ3リーチだ。
(私…… フーゾク嬢になるのかな。この局の結果次第で…… 知らない人にいいようにされて…… 肌を見せて…… 触られて……)
「勘弁して…… よっ!」
ツモ9
「ツモ!!」
ミサト手牌
①②③赤⑤⑤⑦⑧⑨45678 9ツモ
「フゥー…… とりあえず、ドローゲームね。また、まっさらの状態に戻して次の五回勝負をやりましょうか」
額に汗をたっぷりかきながら、それでも余裕の笑みを見せるミサト。今さっき地獄に落ちる寸前まで来ていたとは思えない落ち着いた表情を見せる。
「たいした娘だ……」
200万円帳消し戦。2度目の五回勝負に突入!
99.第伍話 サイコロ麻雀 私は麻雀セットからサイコロだけ取り出してそれで麻雀を教えることにした。牌も使わずに教えるとは一体どういう事だろうと思うかもしれないが。私には秘策がある。「まずこれを4個いっぺんに振ります」コンコンッコロコロコロコロ……1234「いい目が出ました。それでは残り1個を振ります」コンコンッコロン1「これでアガリです」「なんですかそれ、ちょっといまいちスッキリしないんですが。5がアガリなら何となくわかるケド」「このゲームは同じものが2つの他に連続する数が3つ1組か同じ数が3つ1組になればアガリが成立するんです。今回の場合は11と234に分割されます」「ンー? どういうコト?」「まあ、説明するよりやってみましょう。さ、このサイコロをまず4個投げてください」「エイッ!」 コンッ! コンコンコンコロコロコロコロ……3345「あっ、いい感じ。いい目いい目」「えっと、連続する3つと、同じもの2つになればいいなら3が出たら33 345になるからアガリってコトですよネ?」「飲みこみ早ーい! さすがは神様!」「ふふん! そうでショ?」「でもね、コレって実は3じゃなくてもアガリになるんですよ」「エッ!?」「とりあえず振ってみて下さい」「あっ、そうね…… ハイッ!」コンッコンッコロコロコロ…6「ダメだ」「いいえ、それはアガリです」「えっ、どうシテ?」「エルははじめ3345を3と345に分けたと思うの」「だってそうでショ?」「うん、確かにそういう見方も出来るわ。でもね、こうも分けられる」33 45「あっ、そうか。そうすると6でもいいんダ!」「そういうこと」「もう一度やってイイ?」「どうぞどうぞ」コンコンッコロンコロンコロ…4555「これは、5が2個と45に分けることが出来るから3と6でアガリですよネ!」 エルは分かってきたぞ! とばかりに自信を持ってそう答えた。「エル、もう2面待ちを理解したのね。すごいわ!」「カミサマですからネー」「でもね、これはもう1種類待ちがあるよ」「エエ!?」「3個で1組の組み合わせの方は連続形の他に同じものを3つ揃えるという方法もあるの。つまり、この場合は44と555に分けてもいいってこと!」「なるホド! 346待ちだったんダ!」「そ、エルはほん
98.第四話 5つのサイコロ「さ、買い物もしたことだし一旦宿に行ってこれからのこととか話しまスカ」「いいけど、ご飯食べたり宿に泊まったりと、エルって神様なのにずいぶんと人間っぽいのね」「カミサマって言っても生きてるからね。魔法は疲れるから滅多に使わないし。カミサマというより『長(おさ)』に近いのかな。『ダイトーリョー』トカ」「私のいた国には大統領はいないけどね」「あー、ニホンは『ソウリ』がボスの呼び名なんだっケ」「そうそう、内閣総理大臣」「ナイカク? あ、宿みっケ」 宿屋は無人だった。その都度お金を入れることで解錠される仕組みになっており時間制で借りるのと1日単位で借りるのと選べるようになっていた。食事は用意されないらしいが飲み物だけでなく食べ物の自動販売機もあるのでそこから選ぶことができた。「とりあえず20時間借りよう。しっかり寝たいシ」「そうね」──── 部屋は想像してたよりずっと豪華だった。宿っていうから田舎だしてっきり民宿みたいな感じで考えてたけど、これはホテル。しかもホテルの中でもかなり上等な感じがする。さすが神様が借りる部屋なだけはあるなと思った。「あー、あのさあ。クリポンの姿から人間に戻ることとかできないのかな?」「できるけど、この町だと目立つからそのままが便利かもですよ。まあ、人間の姿を見せたからってこの町の人たちから迫害とかはないと思いまスガ」「そっか、まあいっか。戻れるならいいの」「そのうち自分で変身できるようにしますね。今日はもう、今から翻訳魔法使うからそれでおしまいでス」 そう言うとエルは私の額に手をかざした。「んーーー~~……はいっ!!」「おおおおお!?」 するとさっきまで何と読むかわからなかった自販機の飲み物が読めるようになった。茶水栄養ドリンク「読める!! すごいすごーい! さっきまで読めなかった文字にフリガナがふってある! これでもう無敵だあ!」「字が読めるだけで無敵な気持ちになれるなんてユキはすごいですネ」「『スノウ』ね。もう慣れておきたいからこっから先はずっと『スノウ』って呼んでね」「そうでした、すみません。自分で命名しておいて……。スノウは名前ほんとに気に入ってくれたんですネ」「『スノウ』って結局『雪』だからね。大統領の国の呼び方にしただけ」「そうなんですね! そんな
97.第三話 まずは食事「さーて、着いたわよ。町の右側に食堂が1軒あるから行きましょウ!」 まずは食事。何をするにも空腹のままでは始まらない。 店に入っても店員は何も対応してくれなかった。だが、こちらには気付いているようだ。注文が決まるまでは対応しないということだろうか。まあ、異世界なのだから文化が違うのは当たり前だ。それはいいが……とりあえず、メニューの文字が読めないのが困った。「エル、なに頼んだらいいか分からないから全部任せていいかな。なんせ読めないからさ」「あー、そっかそっか。じゃあ読めるようになる魔法そのうちかけるネ」「今じゃないんだ」「魔法は力使うからね。今はほら、お腹が空いて力が出ないの。だから今日のユキのぶんは私と同じの頼んじゃうね。それでイイ?」「それでいい。私、好き嫌いはないから特殊なものさえ注文しないなら多分、大丈夫」 メニュー表の読めない文字の最後には必ず似たような形状の文字が並んでいた。(ははあ…… これは多分数字のようなものかな。おそらく値段だ。良かった、数の概念はあるようね。数の概念のない世界で麻雀を1から教えるのはさすがに骨が折れる。数字のある世界ならやりようはありそうね)──────「ふーーー。お腹いっぱいです。ごちそうさまでした」 クリポン族は身体が小さいからか少量の食事でも満腹になれた。これ以上は入りそうにない。「少し残ってるのは私がもらうネ」「いいよ、エルに出してもらうんだし。好きにして」 2人とも食べ終わったので店を出て町の中を探索した。まずはリュックが欲しい。カバンなどが売っている店を探す。「ねえエル。文字が読めないのが不便だからコレをなんとかしてよ」「えぇ~…… せっかく食べて力回復したのにもう使うんですか~。夕飯の時間まで待たない? 今翻訳の魔法持ってないから魔力使って与えるしかないんだよなァ。魔法付与を使うとまたすぐお腹空いちゃうからさァ」 魔法を持ってないというのはどういうことなのかよく分からないが、魔法を使うと腹が減るというのは私には分からない感覚なのでなんとも言えない。エルにそう言われては待つしかなかった。「じゃあ待つことにするから、その代わりリュックを買って。麻雀マットを突き刺せるくらいのやつ。もう、持ちづらすぎてこれ」 町の中心部にカバン屋さんはあった。そこでエ
96.第二話 担当、エル エルはとんがった長い耳をしていた。「これ、あなたがいた世界では『エルフ』って呼んでいるやつ。あれに似てると思わない? 私の名前にもピッタリよね。エルフ耳のエルって覚えてネ」「似てるけど……(私のいた世界に『エルフ』は実在してないけどね)それより、何で私を連れてきたんですか?」「ああ、それは今から説明するけど、まずは何か食べない? 私いますっっっごいお腹空いてて。ユキもずっと気絶してたんだから何か食べたいでしょウ?」 言われてみれば空腹感がすごい。あと、左肩がじんわりと痛い。吹っ飛ばしたとか言ってたもんね。落下の時に痛めたのだろう。幸い、人間の身体じゃないからダメージは少なかったようだ。「それは賛成です。でも、私はなんだか人間じゃない生物になってるみたいだけど、今までみたいに何でも食べれるのかな?」 「クリポン族は何を食べても大丈夫なはずヨ」 どうやらこの世界でユキはクリポン族という種族になったらしい。「ユキ・イイダのままだとこの世界の名前ではないのでかなり目立ちそうだな~。何か似合う名前を付けましょう。そうネ……『ミサキ』『リョーコ』『サトウ』『スノウ』あたりなら……『ミサ〜』や『〜ノウ』とかはマージにも多い名前なの。クリポン族によくいそうな名前で日本語にもありそうなのはこんなとこなんだけれド……どうかシラ?」「『スノウ』ですか。それ、気に入りました(ていうかスドウならあるだろうけどスノウは日本語にほぼないよね。一応『須能』っていう名前の人はいなくはないけど)」「そう! 良かった。そしたらアナタは今から『スノウ』です。とりあえず町に行ってご飯にしましょウ!」 そう言ってエルは歩き出した。なんだか嬉しそうに鼻歌を歌っている。聞いたことのないメロディだが、喜びを表しているのは伝わってきた。(異世界でも歌の文化はあるんだなぁ)とユキは思った。不安はあるが、とにかく今はエルについて行くことにした。────「そう言えば、エル。事故を起こした時。私は助手席だったでしょう? 運転席の女性はどうなったの?」「そうそう! 本当は彼女の方の噂を聞いてやってきたのよ。でも気付くと今まさに目の前のバスと衝突事故を起こさんとしてるじゃない? 急いでふたりをかっさらってこちらの世界に飛ばしたのよ。でも焦ってたからちょっと強引になっ
95. ここは地球とよく似た別の世界の別の星『マージ』 この世界にも住む人がいて種族があって動物がいて植物がありました。 ただ、娯楽という文化だけが地球と比べてあまりにも発達していなかった。 その事を知って地球というマージに似た世界ではどのような娯楽があるか。最も面白いと言われる遊戯とはなんなのか。それを調査した結果ひとつの結論に至った。『麻雀』 これがこの星で最も面白い娯楽である。という意見。そして麻雀こそ至高だと、そう言う意見の人はみな熱量がすごいということ。それは他の娯楽を推す人のそれとは比較にならないエネルギーだった。 かくして、マージに持ち帰るべき娯楽が決定した。問題は知識無しの相手にも教えることが出来る優秀な人物が必要ということだが……。四章 スノウドロップ~ゼロから始める異世界麻雀教室~その1第一話 ここ、どこ?「ンンッ……あー、ふぁあぁ あ……………!!!???!?!」 目覚めるとそこには何もない、ただ地平線まで山一つなく広がっている緑の景色があった。(ここ…… どこ? 日本じゃないわよね。オーストラリア? いや、オーストラリアでも山くらいありそうなもん…… こんなに何もない場所って…ていうか、空の色、鮮やか過ぎないか? こんな綺麗に青い空なんて見たことないかも…… いや、それより何よりアレは太陽なの? ……いやまさか…… いやいや、まさかそんな、あのちっさいのが太陽的な? まさかね…いや、でも、こう考えると納得いく仮説がある…… もしかしてこれが)「……異世界?」(馬鹿げてる…… んなアホな、そんなワケないでしょ! と言うには太陽らしきものが小さすぎるんだよなー。可能性はふたつだけ、異世界か、ただの夢か……ま、夢ってことは、なさそうだけど)ガシャ「! これは」 ふと見ると手元に臙脂色(えんじいろ)の習字セットのようなものがある事に気付いた。(これは…… 私の麻雀セットだ。というかよく見たら私は麻雀マットの上に寝転んでるな)「私の麻雀セット。これはあるんだ…… でもなんかデカくない? いや、違う。この手……この身体……これは……」(私が小さいんだーー) するとそこに背の低い(と言っても今の姿の私ほど小さくはないが)美しく輝く銀髪の女性が現れた。いや、本当にいきなり空間に穴があいてヌッと現れたのだ。「
94.サイドストーリー4 愛さん 僕の名前は尾崎コウタ。叔父さんの影響で麻雀の魅力に取り憑かれた男だ。 今は自立して地元から離れた土地の雀荘で働いている。なんで地元から離れたかって? それはまあ、近くに親がいるとどうしても甘えてしまうから。自分の甘さは誰より自分がよく知ってる。僕はちゃんと大人になりたかったんだ。 雀荘店員、いわゆる『メンバー』は変な奴が多いイメージかもしれないけど僕はその点は常識人というか、近所付き合いなどをちゃんとしてる方だと思う。特に隣の家の井口さんやお向かいの賤機(しずはた)さん、斜向かいのアパートの田村さんとかは毎日挨拶してる気がする。 今日も夜の仕事を終えて昼頃に最寄駅に到着した僕は真夏に暑い道を通るのは嫌だったため途中で少し大きな公園があるのでそこを横切った。その公園を通れば木々が木陰を作ってるので多少は涼しい。 するとベンチに知った顔がいた。お隣に住んでいる井口さんちのおばあちゃんと愛さんだ。凛とした姿で愛さんはベンチに掛けていた。「愛さん」僕がそう言うと愛さんは小走りで寄ってきた。小さな彼女は僕の近くにきて見つめてくる。かわいい。とても小さいが知的な彼女に僕は敬意を表して『さん』付けで呼ばせてもらってる。少し愛さんを抱き上げる。本当にかわいい。 僕とのコミュニケーションを終えると愛さんはまたおばあちゃんの横に戻り、スッとベンチに掛ける。おばあちゃんも愛さんが大好きでずっと一緒に座っていた。 僕は疲れていたので先に帰ることにした。家は隣なのだが。──── ある日、道の端っこに愛さんが1人ぽつんと佇んでいた。「どうしたの? 今日はおばあちゃんと一緒じゃないの?」と僕は愛さんに話しかけた。愛さんはトコトコと寄ってくると少し僕に身体をくっつけて遊んで欲しそうにしている。僕は小さな彼女を持ち上げて遊んであげた。少しすると近くの家からおばあちゃんが出てきた。どうやら外で待っていただけなようだ。愛さんとおばあちゃんはそのままスーパーへ買い物に行った。──── 愛さんは滅多に声を発しない。 でも、僕が帰ってくると隣の家の2階から「おかえりなさーい!」と大きな声を上げる。そう言ってると思う。僕にはそう聞こえる。 知的で優しくておばあちゃんのペースに付き合う彼女。あの子の名前は『愛』室内飼いされているとってもお利口な